「あ」
「ん?」
 日曜日の午後三時。厚志が勉強しなくてもいい日と定めた安息日。本屋で週刊誌を立ち読みしていた彼は喜色が交じったよく通る驚きの声に紙面から顔を上げる。そこには、明日会うであろう人間がキョトンとした風情で佇んでいた。
 予想外の邂逅に思わず声を上げた奈央は、厚志以外にも浮いた視線から逃れる様に、いや、寧ろ厚志を巻き添えにしようと小走りに対象者厚志に近付いてきた。
「ども。一日振りね、先輩。ここにはよく来るの?」
 小声で話し掛ける奈央に、厚志はページの間に指を挟んで本を閉じる。背中に微妙に店員の視線を感じる。奈央と恋人とでも勘違いされたのか、五月蝿くしないで下さいよと無言の圧をプレゼントされているようだった。
「まあね。ここ最近は日曜だけしか来てないけど」
「成程、流石受験生。今日は週に一度の娯楽無制限解放日って訳だ」
「そういう事。親は追い込みの時期だからあまり感心してないみたいだけどね」
「成績が大丈夫そうなら休める時には休んだ方がいいの。根詰めすぎて受験ノイローゼやヤケクソの開き直りになるよりはずっといい。効率も健康もね。…でも実際どうなの? 志望校受かりそう?」
「推薦は無いけど、判定はAを貰ってるよ。訊かれる前に言うけど、県内では一番レベルの高い大学を選んでの合格率で」
「なら良し。これで判定がBはまだしもCとかだったら少し引いてたわ。先輩を単なる開き直りの人間にカテゴライズしなきゃいけないところだった」
「それはよかった。鍵帰せとか言われたら困るとこだった」
 まだ自分では一度も使っていないのに回収されては物悲しい。会話が一応の終結を見せたので、厚志は奈央に読書申し立てし、間を置かずに許可を出されたので折り目を付けない様に指で印していたページを開いた。
 さて、偶然の邂逅からの話はこれで終わりだろうか。そんな事を少しばかり考えていた厚志の隣で奈央は本を選ぶと、そのまま視線を落として架空の世界に意識を傾け出した。厚志が雑誌のタイトルを盗み見ると、自分の読んでいる週刊誌と同じ物だった。成程この本は今日入荷される本だ。血飛沫に過激な代物で女の娘に似合いそうな代物では無いが、奈央が読んでいると妙に納得と言うか、しっくりくる。……何と無く失礼な思考になってきたので厚志は再び漫画に集中する事にした。
 厚志が読み終わるのとほぼ同時に、奈央も読み終わった様だった。厚志より継読している漫画が少ないのだろう。決して、思考している時忘我に成る癖が出たからではない、と思う。いや、きっと。―本人も自信は無い様だ。
「先輩は他に読む本ある? 私は今の目当てで来たんだけど」
「もう立ち読みの予定のは読み終わったよ。後は今週出た単行本を買うだけ」
 厚志の漫画ライフは、雑誌を立ち読みで品定め。気に入った物は単行本も購入するというスタイルだ。立ち読みだけで済ます漫画はかなり多い。よくある方法だった。
「封されてる事があるのを買うのは分かるけど、毎号読めるやつは古本屋で買ったら?」
 奈央が一際小さな囁き声で、厚志の財政状況を考えた提案をする。
「最近の古本は高いし、最新巻の売却を待って何度も足を運ぶのも悔しいから、集めようと決めた漫画は、古本屋に出回ってる既刊を買い終わった後は新本で買う事にしてる」
「時は金なりを地で行ってるね。オシャレにお金を使う性質でも無さそうだし」
 休日といえば当然、私服な訳で。奈央は厚志の、センスが無い訳ではないが、然してファッションに拘っていないいない様子の身嗜みをチェックする。
 まず、髪はちゃんと手入れをしている様だ。顔の皮膚にも男子学生に有りがちな吹き出物は無し。次いでに眼の下に隈も無い。眉が揃っているのは天然なのか判断付かないが合格。髭の剃り残しも無し。注意の払いは人並み程度だが、性格と作業効率の良さできっちり仕上げていると見た。露出部分の感想はそう結論付け、次は服。上着、黒。シャツ、白。パンツ、黒。何れも、隠れた良服を作っている中堅ブランドが出した、着用本意のシンプルシリーズで飾り気無く纏めている。ついでに言えば身長は百七十センチ強か。自分より目測で十センチ以上高い。うむ。
「八十点、あ、勿論一般人としてね。服装に高級感が無いのが好み分かれそうだけど、機能性とセンスは良いからステイタスで似合いもしないブランド物で着飾る奴より好感持てるわね。敢えて言うなら彩りに欠けるぐらい? くそ、先輩の癖に生意気な!」
「や、そんな褒め掛けといて無理に因縁付けられると反応に困るんだけど」
「何と無く言ってみたかっただけだから気にしないで。最後以外は本音だから。総合すると、先輩はまあそれなりにいい男って事で」
「『まあ』って前置詞が気に掛かるんだけど。反応としてはありがとうが正しいのかな?」
「寧ろそういう話じゃないと思うけど。ま、いいか」
 奈央は言葉の間に、何ものも絡ませる事無くするすると逃げていく髪に指を滑らせる。
「で、本買った後どうする? 私も暇だからさ。遊戯(ゲーム)やゲームセンターに行くなら、一人でやってもつまらないもんね」
 口元に微笑。髪を軽く靡かせて小作りな顔を凪ぐ。クリーム色のセーターの上から羽織った薄紅のカーディガンが色彩に優しい。健康面が良好なのは、華奢な体系ながら、同年代の平均以上に二次成長が進んでいるのを見れば分かる。これだけなら華道を受けた明るめの清楚なお嬢様に見えるかもしれないが、長くスラリとした脚を隠す空色のパンツルックが、印象とは違う生の彼女の気質を表している。
 そんな、彼女流に言うなら百点満点の振る舞いで、魅力的な誘いを提案してくれた。
「ゲームセンターはお金が勿体無いから、ボーリングかビリヤードかどちらかなら」
「ビリヤードって…渋い趣味ね?」
「そう? クライミングよりは万人受けの趣味だと思うけど」
 多分に私心の入った、厚志の単行本を探しながらの言葉に、奈央は自分でもそう思っていたらしく「違いない」と頷いた。
「僕の候補は前述の二箇所だけど、碑蔵さんは他に提案ある?」
「いいえ。その代わりと言ってはなんだけど、どっちにするかは私が決めていい?」
「うん。僕はどっちでも構わないから遠慮なくどうぞ」
「じゃあ、ビリヤードで」
 奈央は候補を挙げられた時点で決めていたらしく、簡潔に即答した。
「…プレイ出来る人間が色眼鏡の入った発声で渋い趣味とか言わないでよ」
「いやいや、こんな所で同好の士に合えるとは思っていなかったから、ついからかいたくなって」
「全く…」
 厚志は彼女らしいと微苦笑し、購入予定の単行本を手に取った。近場からもう一冊本を重ね、厚志は一つ重要な事を思い出した。
「碑蔵さん。ここまで来たのは徒歩? 自転車?」
「え? 歩きだけど?」
「そう、ならよかった」
 厚志は頷き、レジへ本を持って行った。

「あ~これはちょっと意外だったわ」
 本屋から外に出て、駐車場から一直線に歩道に行くのかと思いきや、蛇行して一台のファンカーゴの前に止まる厚志を見て、奈央は驚いて逆に平坦になった声で感想を述べた。
「一応免許取れる年齢だからね。近場だから徒歩や自転車でもよかったんだけど、母さんが慣れておけって。買い物に出る時僕の運転で出たいらしいから。やっぱり自分で運転するより楽なんだろうね」
「そりゃそうでしょ。私みたいに免許持って無くても、車の運転自体が好きな人じゃなきゃ助手席に座ってる方がずっと楽だとは思うもの」
 厚志が指先一つでドアロックを解除して運転席に乗り込む。一拍遅れて奈央もパートナーズシートのドアを開いた。
「どうせ乗るならバイクの方が好きなんだけどな。でも今日は車にしておいてよかったよ。バイクだと、一度ヘルメット取りに帰らなきゃならなかった」
「バイクも持ってるんだ。はは、似合わね~。両方とも自分で買ったの?」
 二人してシートベルトを忘れずに締める。厚志が手早く前後左右を確認してからキーを填め、エンジンを駆動させる。
「車は、僕が生まれた時から預金通帳に普通車なら充分買える金額を作ってくれてたからそれで。バイクは自分で買ったよ。と言っても、叔父さんの店から友達価格で買った上、預金から少し下ろしただけだけど。バイトしてるの見付かったら怖いからね」
 校則でアルバイトは禁止されている。勿論バイトが禁止されているような鳳仙でバイク通学が許される筈も無く、厚志が二輪免許を取ったのは四輪免許と違って完全に趣味だ。
 厚志の操るファンカーゴは曲がりながらバックして、車道へと面を向ける。
「参考までに聞くけど、モデルは?」
「Vツインマグナ」
 言う厚志の顔には無意識の笑みが浮かんでおり、そのバイクを甚く気に入っているのが見て取れる。しかし、奈央は冷や汗垂らり。
「…高校生が買うバイクじゃないと思うな、それ…」
 上下高を抑えた個性的なロー&ロングフォルムと、250としては大柄な車格、そしてアメリカンとは思えない安定したコーナリング性能で、デビュー以来高い人気を集めるクォーターカスタム。エンジンは、あのVT250Fをルーツとする熟成の水冷90度Vツインで、事実上100km/h以上の速度域を切り捨てることで、常用域のトルクフィーリングや加速性を強調している(カタログより抜粋)
 説明が些か長くなったが、それだけに値段も六十万弱と、バイト禁止の高校生の持ち物ではない。
「叔父さんの店に並んでるのを見て、幼心に乗ってやるって思ってたんだ。昔から欲しいものは買うけど、散財はしない方だったから、預金の四分の一も下ろせば買えたよ」
「お年玉も入学祝も全額預金してたでしょ」
「ご明察。高校生なんて、週刊誌や月刊誌を大量に購読でもしてなきゃ、ゲーム以外に一月で大きな出費なんてない。食費も学費も光熱費も水道代も、全部親が出してくれてる訳だから。―――と、出れるかな」
 休日で通りの多い車道は信号が赤になったのを切欠にピタリとその波を止め、厚志を始めとする駐車場からの退場組が車道へ参加し始めた。
 奈央は厚志の暴論に溜息一つ。
「本当、ファッションに頓着しないのね。まあ、それを言ったら鳳仙うちの奴等大多数だけど」
「悪かったね、高級感の無い服装で」
「いいんじゃない、似合ってるし。成金主義の人間が相手でもない限り、少なくとも馬鹿にはされないでしょ。地味とは思われるかもしれないけど」
「地味…」
 厚志はグサッと来つつも、ハンドルやアクセルはしっかりと操作して、ビリヤードの出来る遊戯店に向かった。

 トッ。軽い音がキューの先端(タップ)と手球のから発生する。手球は的球へ、そして的球が9示すカラーボールに当たり、ラッシャの上からポケットへと転がり落ちた。その他の球は勿論落とした後である。
「これで五連勝♪ 歯応え無いね、先輩」
 店内の一角に、得意気な顔をした勝利者―奈央の楽しそうな笑い声が響く。
「下手の横好き相手に、やり込んで技能もある人間が本気出さないでよ…」
 これで勝敗は十六戦やって奈央の五連勝を含む十二勝四敗。途中まで厚志も食い下がっていたが、数をやるとトリプルスコアと言う明確な形で実力差が提示された。
「じゃ、手加減されて勝ちたい? こういうゲームの手加減って難しいから、小馬鹿にされてる感じがすると思うけど」
「…確かに、態とらしい手加減されたら、余計剣呑な気分になりそうだ」
 丸椅子に腰を下ろしていた厚志は立ち上がって、首と肩を軽く回す。壁に掛けられた丸時計を見ると、台を借りてから五十分以上が経っていた。
「次ぐらいが最後かな。ラストゲームだし、何か賭ける?」
「賭け?」
 奈央の提案に、厚志は訝しげに言葉を反芻する。ここまで圧倒的に強い奈央の提案と言う事は賭けの対象が物であろうと金であろうと行動であろうと、その対象を厚志にやらせるつもりなのだろう。奈央は考えが表情に出た厚志に手を振って、安心してと文字通り手振りで示す。
「無理難題なんて言わないって。そうね、帰りに家まで車で送ってもらうだけでいいや。先輩が勝った時は好きに決めて。私が嫌な事じゃなきゃ大体こなしてあげるから」
「大した自信だね。というか、賭けになってないよ、それ」
 家まで送るのは寧ろ節介でなければこちらから言い出そうと思っていた事だ。奈央一人置いて車で帰るのは後味悪い。
 結局ビリヤード対決は奈央が六連勝で締め括り、厚志は本日の運転手業を終了させた。



「お帰りなさい。本読みに行っただけにしては。結構遅かったね」
 家に帰った奈央を迎える第一声が、女の悪戯心がありありと伺える、この言葉だった。
「ちょっと先輩と遊びに行ってただけ。姉さんこそ、彼氏とデートに行ったにしては、随分と早いお帰りね。いつもはそれはもう、楽しんでくるのに。平日バイト入れてる分特に念入りに」
 奈央はそれに対してサラッと嫌味で返してやる。
「あたしが早く帰ってくるの、そんなにおかしい? 今日はプラトニックだったからその分早いのは確かだけど」
 姉―碑蔵ひくら遥子ようこは奈央よりは短い髪を左手で軽く弄る。奈央が流水ならこちらは絹と言った風情で、指が程好く絡んでいる。奈央は開けたばかりの玄関のドアを閉め、鍵を掛ける。
「そうしてある程度の間を置いた為に昂る不満。二度三度と繰り返される内に津に本能が理性を淘汰し、襲い掛かって来る智樹さん。言葉では拒みつつも受け入れるあたし。だってそれはあたしが望んでいた事だから! 燃え上がる二人に最早―――」
「はいはい、大学生でデキちゃった婚になったとしても私は祝福してあげるから、幾らドアを閉めた後でも玄関前でそんな猥談はしないで。っていうか、するな」
「オチを先に言うなぁ! いや、本当に作るにはまだ早すぎるけど。……何か忘れてるような…?」
 遥子が小首を傾げている間にも、靴を脱いだ奈央は廊下を右に折れ、二階の自室へと向かおうとしていた。
「…ああ、奈央。ちょっと待ってぇ~。思い出したから~!」
 遥子が思い出したのは、奈央が階段に足を乗せたのと同時だった。奈央は遥子の足音が聞こえたので、親愛なる愚姉を出現方向へ身体ごと振り返って待ってやる。程無くして、遥子も階段まで辿り着いた。
「あなた上級生に友達なんていたっけ? 車で帰って来たよね?」
 漸く逸れた本題を質問する遥子。
「本題を忘れるぐらいなら、からかいに乗って一人で話を展開させない様にしなさい。頭はキレるんだから」
 奈央はいつもの様にこのからかいがいのある姉に、最早言っても無駄であると分かりきった助言をし、階段を指差す。遥子が頷くのを確認して奈央は踵を返し、階段の続きを上り始めた。
「気を付けてはいるんだけどね。話を展開させると浮かんだ言葉で前の考えが少しの間消えちゃうというか。あなたも会話の回りがいいから血筋なのかな」
 一拍置いて、奈央の背中から足音と声が追い掛けて来る。
「私は姉さんみたいに本題を忘れたりしない。それに姉さんのは会話と言うより妄想ストーリーの様な気がするけど。ああ、それで答えが遅くなったけど、姉さんが考えている様に最近三年の先輩と友人関係…でいいのかな。まあ、兎に角そんなのになった」
 助言に頷くだけでなくしっかりと反論的な話を展開させる遥子に、奈央もきっちりと姉と自分の違いを指摘してから、随分と寄り道した話題の回答を口にした。
「尤も、私は同級生に友達はいないけど。あの学校で無理に友達作る気になれない」
「それはあたしもそうだったけど、それでも何人かは友達いたよ?」
「姉さんの時と違って私は特進クラスの方に入れられたから。クラスメートでも普通と勝手が違う。そもそも、私嫌われてるみたいだし」
「…大して勉強しないで特進クラスの中でも一、二の点数取ってれば、それは嫌われるでしょ。特進クラスは点数が悪いと直ぐ普通クラスに落とされるんだから。…嫌われてるって、苛めとかされてない? 奈央、頭いい上に綺麗でかわいいから、同学年の女子とかに」
 理事長の孫とはいえ、妬まれる時は妬まれる。妬んだ者が大勢いれば、中にはその嫉妬を行動に移す不埒者も出て来る可能性はある。それがどれだけ県内屈指の進学校、その特進クラスであろうとも、可能性は悲しいかな、ある。そして実行に移された時は、頭がキレる分だけ陰湿だ。
 言葉の軽さの割に奈央を心配している、時折見せられる遺伝子上だけでは無い、姉としての遥子の表情。それに奈央は、口元に小さな微笑を乗せ、左手を自室のノブに掛けながら右手を『無い無い』と振る。
「もし仮に苛められたとして、私がやられっ放しで正義の味方、ヒーローを待つ人間に見える?」
 遥子は開けられたドアを潜るのも忘れ、想像を展開させる。机や教科書に書かれる陰湿でいて悪質な精神攻撃。そして、妹はそれを見て……
「…怜悧な視線で机を一瞥して、使える手は全て使って犯人を捜し出して、二度とそんな気を起こさせないぐらい粛清しそう。何処で買ったのか知らないけど、やばいスタンガンとか持ってるし」
 硬直から解かれ、形だけ「お邪魔します」と言い、奈央の部屋に入る。
「やばいスタンガンは酷い。リミッター式のスタンガンのリミットを、外し方調べて取っ払った、普通の護身用よ。今は戻してるし」
 事も無げに言う奈央に、遥子は冷や汗を垂らす。
「……調べて、技術を知識として知っていても、興味本位で外したりする人はその中の一割いないと、知識も興味もないお姉ちゃんは思う」
「いや、寧ろ調べる時点で分解したいと思ってる訳だから、意外に過半数超えてるかも。成功する確率は置いとくとして」
 机を挟んで二人は腰を下ろす。座りながら遥子は相変わらずの奈央の部屋をくるくると見回す。
 奈央の部屋は淡色系の部屋の色使い以外は、家財道具一式両親が用意しただけあって、大凡遥子の部屋と変わり無い。部屋も非常に綺麗に整頓されている。
 ただ、本棚は漫画本、それも地飛沫舞う、益体無い言い方をすれば少年漫画以上に過激なバトル物だったり、麻雀を始めとした賭博物が多く、テレビの前にはゲーム機と、ゲームボックスが鎮座し、ソフトの購入は最近極端に減っているが、スタンスはアーケードで気に入った格闘ゲーム以外は評判次第で慎重に少数精鋭購入。
 音楽に関してはジャンルバラバラの、歌手バラバラでクラッシクや洋楽も聴いている。部屋にはコンピュータもあり、インターネットを使った調べ事以外はフリーソフトのネット対戦の麻雀ゲームの対戦台として働いている。
 ベッドの反対側にある鏡台は、基本として整頓されているこの部屋でも特に整頓され、年頃の女の娘の部屋だと感じさせはするが、そんならしさが寧ろ統一感の無さに拍車を掛けている印象だ。
 極め付けは学習机の上に置かれている犬のぬいぐるみ。ぬいぐるみを置いているのはいいが一体だけぽつんと、それもこの『奈央の部屋』にある違和感は計り知れない。
 家族である遥子は今更何も言う事は無いが、初めての来訪者なら困惑しそうな内容だった。
「また話が逸れてるよ。で、その友達の名前は?」
 遥子が何度目かの話の軌道修正を図る。
 二人の会話はテンポよく言葉が交わされ仲睦まじい印象を与えるが、その実内容は脱線過多で、中々終電が見えない迷惑電車だった。
「ああ、大蛇耶厚志って普通クラスの先輩。姉さんとは別の意味で話してて楽しいよ」
「おろちや? ああ! 大蛇耶君か! あの面倒見のいい後輩の!」
 遥子は鸚鵡返しに呟いて、ポンと手を打った。遥子と奈央は四歳差。一昨年まで奈央と同じ学び舎に通っていた彼女と厚志に面識があってもおかしくはない。が、奈央は一つ気になった。
「姉さん、ごめん。姉さんが在学中って先輩一年生よね? 面倒見がいいって、それは一体…」
「ああうん。あたし、生徒会の役員に選ばれてて、うちの高校でも体育祭はあるでしょ。でも、あたしの代は体育祭にやる気が無い子が多かったから、ちょっと不手際で役員テントの確認の状態が出来て無くて。それも気付いたのが前日で、しかも残っていたのはあたし一人。テントは縫って修繕できるけど、骨組みの方はあたしじゃお手上げ。そんな中、図書室帰りの大蛇耶君が通り掛って。前日でも骨組みなら店で売られている物で何とかなるって言われたんだけど、あたしが役員の失態を知られたくないからって我侭言っちゃってね。そしたら彼、工作室から色々持って来て、あたしがテントを縫ってる横で、金槌とドライバと添え木で骨組みの応急処置しだして。魔法みたいにとはいかなかったけど、何とか使えるようにしてくれたんだ」
「それで、面倒見のいい後輩?」
「うん。あの時は本当、助かったなぁ」
 思い出を懐かしみ目を細める遥子の横で、奈央は一昨年の体育祭まで記憶を遡らせる。
 確かに姉を助けてくれた後輩がいたと話をしていた気がする。姉さんの些細な意地から来る我侭を尊重して、自らの最善策を引っ込め手伝う。
「先輩ってその頃からお人好しだったんだ」
 思わず奈央は苦笑する。それも、大凡日常でも進学校でも必要無さそうな技術を使って、不器用ながらもやり遂げて。これ以上無い程に奈央の厚志像と合致して、漏れていた苦笑は微笑に変わっていった。
「……」
 じーっと、その微苦笑を遥子が眺めている。それを咎められていると思った奈央は、口元を右手で隠す。
「と、先輩の癖が感染うつったかな。何?」
「付き合ってるの? あなた達って」
 あっけらとしてはいるが、神妙そうな雰囲気で訊ねる遥子に、奈央は息が掛からないように明後日の方向を向いて、その分盛大に溜息を吐いた。
「何と無く訊かれると思ったけどね」
 友達がまともにいなかった人間に異性の友人が出来れば、遥子でなくとも勘繰るだろう。奈央だって、自分が聞き手なら邪推する。が。
「全くそんな事無いよ。これからそうなる確率も無い。確かに先輩はいい人だって会って数日でも分かるし、話してて楽しい。でもね、対象がお互い人間扱いじゃない。言うならエンターテイナーか。あればいいけど、無くても支障無い。先輩も似た様な気持ちだと思う」
 遥子は奈央の自分と厚志との関係の説明に、少々顔を引き攣らせた。
「随分ボロクソね…。思ってても言えないぐらいに」
「これでも言葉は選んだ方だけど」
「…あれで?」
 遥子は我が妹ながら、奈央の思考回路に呆れた。というか、もっと酷い言いようってどんなだろうか。そのまま自分に返って来る関係らしいのに。
「…まあいいか。孤独な妹に友達が出来ただけ」
「あんな学校だからウマが合う奴がいないだけ。―――そういう意味でも、私と先輩は似てるかな。先輩も鳳仙じゃ珍しいタイプだし。異端者同士が仲良くなる道理は無いけど、その異端の質が異端なりに近かった、って言うのが、会話した切欠みたいなものだから」
 奈央には珍しく、愚痴っぽい返論だった。それも当然か。入りたくて入った高校ではなかった。中学時代の友人は一部除いて薄っぺらかったが、入学したくもない進学校に入学するぐらいならあのぺらい関係の方が奈央には大事だった。碑蔵の娘で無ければ、間違い無くそうしていた。
「祖父孝行祖父孝行」
「分かってる。私だっておじいちゃんの夢を叶えるぐらい、吝かじゃないんだから」
 そう、奈央が入学した理由は一つだけ。件の鳳仙高校の理事長である、祖父の夢。子や孫が、自分の作った鳳仙の制服に袖を通し、学生生活を送る。自分勝手ではあるが、同一の立場なら誰もが思い浮かべるだろう未来像。それを叶えてあげる為だった。因みに理事であり、同居しているのは父方で、連れ添いは三年前に逝去した。母方の祖父母は健在であり、碑蔵家から車で三十分程離れた実家で暮らしている。
「まあ、訊きたかった事も聞けたし、この話はこれ位にしよ。
 晩御飯何にする? この間はあたしの意見を通してもらったから、今度は奈央の番」
 遥子の急激な話題転換。碑蔵家の食事当番は通常、平日が遥子と奈央。休日が母になっている。しかしこのシーズン、祖父は理事会で、両親も大学で、それぞれセンター試験の結果について呼び出される。必然的に姉妹にお鉢が回ってくるわけだ。
「肉野菜炒めにしよう。母さんもそれ作る気だったみたいだし」
「オッケ。コンソメスープ、付けてもいい?」
「いいけど。この間健康には必要以上の嗜好品はご法度って言ってなかった?」
「その分運動するからいいの。え? 何の運動をするかって? そんなのナニに決まってるよ~。汗ばむ肌、激しいピストン運動(受け手)。この二つからだけでも分かるように、結構カロリー使うんだ。世の中にはセックスダイエットなんてものまであるし」
「大半はふざけてるんだと思うけど、最後の一言で真面目なのかと悩む話題の振り方しないで」
「あたしはいつでも真面目だよ。あなたと智樹さんの前でしか言える話題じゃないのは分かってるから心配しないで」
「はいはい、そうだったね」
 奈央はおざなりに返して、明確な目的意識の無い雑談にシフトチェンジしたのっけから、方向性の修正を暗に求めた。








 前半投稿分、後半完全挿げ替えで終了。勘取り戻し系で書いてる面があるのでビリヤードやスタンガンについては調べが甘いです。これおかしいぞと気付いた方は一報下さい。
 外見紹介。

 碑蔵ひくら遥子ようこ
 性別:女 年齢:20(1/13)・大学二年
 身長:159 体重49
 3イズ: 90 57 86
 髪;黒(背中に掛かるぐらいのロング) 瞳:黒(普)

 こんな感じ。彼女は口調が決まらなかった上、決まった今でも難しい。奈央は楽なんだが。
 ではまた次週会えますよう。






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