その記憶には色が付いていた。五歳の少年と、八歳の少年、そして、四歳の少女。よく三人で遊んだ。十三年も前の記憶だ。
 意識して思い返した事があるわけではない。なのに、これ程鮮明に覚えている。
 少女が少年のことを呼んだ。弾んだ声で『あつにいちゃん』と。
 直後記憶が跳躍する。そこには既に動かなくなった犬と、怯えた眼の少女がいた。

「何て夢を……」
 寝覚めは最悪だった。最悪過ぎて頭がはっきりする。寝惚けずに済んだのと天秤に掛けても歓迎したくは無い。
 時計は六時。正確には五分前。鳴り始めてもいない目覚ましをオフにする。―――し損なった。
「くそっ」
 日曜日、楽しみにしていたライブの日。厚志の朝は、悪態から始まった。

 悪い事は続くものらしい。
 健康の為のトレーニング(腕立て、腹筋、背筋、スクワット、各五十回の三セット)を終了し、身嗜みを整え、朝餉を食べた厚志に漣一から凶報が入った。
「この前言った冗談が本当になった……」
「……風邪?」
「インフルエンザ含む、な。厨房スタッフの従業員は全滅だ。おまけに、お袋は生理で体調が悪い」
「それは……大変だね」
「行けないからチケット取りに来てくれ。事情知ってる奴……まあ、律ぐらいしかいねえが、誘ってくれや、勿体無いから」
「分かった」
 頷き、招来で漣一からチケットを受け取る。晴れない顔で招来から出、朝早くで人も車も疎らな道を戻り始める。携帯が鳴った。傀からだ。
「はい」
「おはようございます、兄さん。それでいきなりですが、昨夜も収穫は無く、しかし矢張り嫌な予感がするので、それに従って近所を練り歩こうと思うんです。ですから、ライブの待ち合わせ場所には来ないものとして扱ってください」
「……分かった。チケットは?」
「はい。こちらで有効利用しました」
 有効利用。その行き先は予想が付く。それを受け取った人物が有効利用するかは、まるで分からない。タダじゃないのだから、その受け取り主には見に来るだけでもして欲しいところだ。
「じゃ、頑張って」
「はい。兄さんも楽しんできてください」
 裏表無しと、計略。どちらにも心底の傀の言葉に、厚志は肯定で返した。
 厚志はは通話の切れた携帯電話を、仕舞わずにアドレスから名を呼び出す。
「こんな朝からどうした?」
 学校は別れたが、未だ馴染みのある声が応対する。
「撃ちたいんだ。そっち行っていいかな?」
 受話相手の開口一番の質問に、厚志も簡潔に答える。
「構わないよ。特に何か用事があったわけでもないしね」
「助かる」
 礼を言い、厚志は家に帰り、ガレージから解放したⅤツインマグナを、西へと走らせた。

 …ッ ドッ!
 空気が破裂する小さな音がして、一拍と遅れず的が着弾に悲鳴が上がる。
 ここは私有地に作られた防音壁の遊技場。早い話が、先程電話した相手の家の庭にある、そこそこ大きなプレハブ小屋だった。
 そしてそこには、学術書、小説、漫画と区分けされた本棚や、冷蔵庫、テレビにゲーム機、パソコン、更には射撃用の的もあり、厚志が構えているのはグロッグ19をモデルにしたエアガンだった。
「相変わらず上手いものだね。久し振りに遊びに来ていると言うのに」
 厚志の二メートル斜め後ろ、椅子に腰掛け、裁縫道具を弄っているのは篠崎しのざき隆大ゆうだいだった。厚志と同学年の彼は、既に世界一の有名大学医学部に推薦が決まっている。加えて、そこでも数少ない、本当の天才でもあると、厚志は思っている。
「記憶力が取り柄だからね。覚えた事は簡単には忘れない」
「その割には、ビリヤードは上達していない様だが?」
 空になったマガジンを代える。十五プラス一発のセミオート。本物と変わりない。一からの作り手である隆大の凝り様が窺える。実用的な品なのに、変な所で娯楽している。それでいて、厚志が以前使っていた規制の物を自分なりに使い易くした物より出来がいい。
「向いてないのかな。技能が追い付かないんだ」
 適切な処方を知っていても、能力が足りなければ成功率は激減する。逆に技能が足りていれば、
 …ッッッ ドドドッ
 即時に三発。十メートル先の的、その同一箇所のみが衝撃にへこんだ。少々のブランクがあっても、身体が技能を覚えていればこの様に、錆びる事は無い。
「しかし、嫌いではないと」
「そうなんだよね。今のところ下手の横好き」
 答え、的の指先、心臓、頭部と狙って撃つ。時に、一点に三連射撃もする。
「順調?」
 わざと裂いた豚足を縫い付ける手を止めず、隆大は答えた。
「今のところはね」
 厚志の感情は、マガジン六つ分で発散出来た。

 時刻は午前八時二十分。コンクリに減り込んだ鉛弾を回収し、厚志も椅子に腰を落ち着ける。
「今日はどうしたんだ?」
 厚志の気が済むのを待っていたのだろう、隆大が今日来訪した理由を訊ねる。厚志は用意してくれていたカップにコーヒー粉を取り分けながら言った。
「懐かしい悪夢を見た」
「そうか」
 隆大は悪夢の内容を言及せず、裂いた豚足の縫い合わせに神経を戻した。
 厚志と隆大の付き合いは短い。中学三年に二人は友人付き合いするようになり、しかし隆大は卒業とともに海外に単身留学で進学する筈だった。が、それを急遽取り止め、鳳仙でもない、岐夙市きしゅくしでは一般的な岐夙高校に行ってしまった。仮にこの時留学していれば、今頃は前例を上回る速度で博士号を取り終え、科学者(この時は医療関係ではなく科学に興味があった)として一線で活躍していた事だろう。
 当時の留学取り消しについて、厚志は本人から聞いたわけではないが、母親が死んだ心因的な事情からだろうと考えている。中学の同級生が多数いる高校に編入したのに、いつも予定が空いているのは、それを引き摺って近寄りがたい雰囲気でも作っているからかもしれない。勿論、同級生の友人が少ないのは厚志も人の事は言えないが。
 コーヒー粉を多めに取ったカップに、ポットからお湯を注ぎながら、厚志はふと気付いた。
「何か前に進む材料でもあった?」
 九十六日会っていない。だからこそ見て取れたのかも知れない微細な変化。母親が死んだ後数ヶ月の彼の雰囲気に似て否なる空気。
「少し、ね。目標の無い決意みたいなものが出来たのだと思ってくれ」
「そう」
 厚志はコーヒーを飲んで、補充した弾丸分の小銭を置いた。
「大蛇耶」
「うん?」
「お前も、何がいい事でもあったのか?」
 隆大も気が晴れた厚志から、正の感情を感じ取った様だ。
「新しい友達が出来たからね。悪夢は懐かしかったし、今日はライブまである」
 厚志は笑った。今日初めてと言ってよかった。
「そうか、では昔からの友人から提案だ」
 縫合が終わった豚足をトレイの上に置く。表面は最低限、裏面は複雑なまでに縫い込まれている。人の身体で云えば糸を抜いた時、手術痕は目立たないものになるだろう。流石である。本棚に取り揃えられている日本海外問わない最新の医学書も、恐らくは全て眼を通し、内容を理解しているのは間違い無い。
「休息に付き合え。集中力と指先の神経を使う、格闘ゲーム等いいかもしれん」
「あはは。了解、というか、願ったりかな」
 小屋を出たのは、結局二時間以上経ってからだった。

 柚夏の待ち合わせ場所に着く予定時刻は十一時三十分。その三十分前。自宅からならアウトだが、篠崎の家からなら法廷速度を超えずとも充分間に合う時間。バイクに跨る前に、キーと一緒に取り出したチケットを眺める。
 開場は十八時。誘うなら早めの方がいいだろう。厚志は、全ての番号を覚えている携帯電話のアドレス帳を開き、傀から伝え聞いて登録した名前の、下の名を呼び出した。



 時刻は午前十一時。昼食には早く、家族全員が手持ち無沙汰の時間。奈央は祖父の部屋で正座し祖父がレンタルしてきた時代劇を見ていた。
 祖父は歳同様皺の深い顔を笑みの形にして見入っている。奈央も嫌いではない。孝行しようとか思って観ているわけでは無い。昔から家族仲の良い子どもだった。暇で、適当にネットでも眺めようと思っていたぐらいなのだ。誘いに乗らない理由もない。
 保温ビンに入れた程よい熱湯を、お茶の葉を入れた急須に注ぐ。中盤の山場がもう終わる。恐らくはそろそろ茶が欲しくなる頃だろう。
「ああ、ありがとうね」
 案の定、祖父は湯飲みに手を伸ばし、空だったはずの中を淹れたての緑茶が満たしている事に礼を言った。
「どういたしまして。ま、私も飲みたかったって言うのもあるんだけど」
 言葉通り、奈央は音を立てずに静かに茶を啜る。祖父は茶だけでなく煎餅も食べていたが、奈央は出された煎餅三枚の内、始まった直後に食べた一枚しか減っていない。時間帯が時間帯だ。一枚一枚封されているのだから、よもや湿気る事はないだろう。
「うん、美味い」
 満足気に微笑まれる。悪い気はしない。
 ♪♪♪♪
「と、ごめん」
 携帯電話の着信音が鳴った。初めて使う着メロで、その着信も初めてだった。手短に祖父に断り、座布団から腰を上げる。
「別に掛けていても構わないよ?」
「いや、長くなるかもしれないから。おじいちゃんは時代劇見てて」
 時代劇の内容は、申し訳無いが、奈央に取って然して面白い内容ではなかった。電話しながら見たいほどではないのだから、当然の配慮だった。
 部屋を出、改めて着信相手の名前を見る。
 少しばかり意外な相手で、動揺したのは事実だった。
「はい。お待たせしました。登録以来の電話ね、先輩」
「そうだね。まあ、学校で会ってるんだから、使う機会も大して無いさ」
 電話越しでも、ポンと飛び出る厚志の会話が、奈央は少し嬉しかった。
「それで? その使う機会とやらで飛び出す話題は何なのかしら?」
 同時に汲取る。暇潰しの雑談と言うわけでは無さそうな事を。
「うん。その前に二つ確認。今日暇? 暇だったとして、門限ある?」
 きょとと、奈央は一瞬会話のテンポを外す。遊びの誘い、というのは予想していたし願ったりなのだが、門限の確認とは一体?
「えっと。一つ目は暇。二つ目は、言われた事ないから分かんない」
 ああくそ、質問の意図の把握不全を声に出してしまった。
「そっか。実は、友人が所属するHoly聖なる Script構成っていう、インディーズバンドが、ルーフってライブハウスで歌うんだ。それに行く予定だった漣兄が行けなくなったから、碑蔵さんを誘おうと思ってさ。で、時間の方が開演が十八時。独占ライブだけど全曲歌うから、二十時まであるんだ。打ち上げまで参加したら、二十一時も過ぎる」
「へえ…」
 奈央は感嘆符を出す。母や姉に付き合ってプロのライブを見に行った事はあるが、インディーズのライブは見たことがない。インディーズのバンド名は知らなかったが、独占開催すると言う事は上手いバンドなのだろう。
 同時に、天然なのか計算づくなのか分かりにくい厚志の話術にも感心した。外堀からゆっくり埋めていけば、否応無く興味が引かれるものだった。
「行ってみたいな、それ。母さんと父さんに許可とって来る」
「そう? でも大丈夫?」
「心配しないで。家じゃ一番しっかりしてると思われてるから」
「……そっか。僕は短い付き合いだけど、君の事を信頼してるよ。じゃ、切っておくから、結果が出次第電話して」
「う、うん」
 切られた電話で、コンと額を叩く。
『しっかり』と『信頼』単なる言葉遊びかもしれないが、それが嬉しかった。

「母さん、父さんさっき友達にライブに誘われてね。六時から始まって、帰りが九時過ぎそうなんだけど、いい?」
 両親は都合よく、二人揃ってリビングでバラエティ番組を見ながら寛いでいた。
 入って来た奈央に元々意識は振っていたが、問いに、二人とも改めて顔ごと視線を合わせた。
「……う~ん、九時か」
 父は告げられた外出時間に少々意外な様子だ。無理も無い。奈央が家族とで無く、そんな時間まで遊びに行くというのは初めてといっていい。先日の、夕食を外食で済ますのでさえ稀なのだ。注釈するが、外で食べたからといって当番は放棄せず、夕食は作った。
「いいんじゃないかしら。奈央ちゃんなら大丈夫でしょうし」
 母は奈央の外出に肯定的だ。父の意見をも促してくれる。
「そうだな。ああ、けど、場所は何処だい?」
「ルーフってライブハウス」
 住所は知らない。突付かれると厄介になるかもしれないが、父は気付かなかったのか、奈央の日頃の行いの賜物か、許諾してくれた。
「ただ、九時を大きく回るようなら電話しなさい」
「分かってる。それと夕飯は食べてくるから、私の分は抜いておいて」
 母の了解を確認し、奈央はリビングを離れた。信用されている事で嬉しく思ったのは、初めてかもしれない。
 時代劇観賞中の祖父に断りを入れ部屋まで戻り、ベッドに腰掛け、アドレスから厚志の番号を呼び出す。コール一回で繋がった。
「どうだった?」
 開口一番。奈央は期待に応える言葉を返す。
「うん、大丈夫だった。打ち上げまで参加できるように時間言ってきたけど、私が参加してもいいの?」
「それはこれからの僕の努力次第かな。結果が出次第電話する。駄目だったら僕も抜けて、夕飯奢るよ」
「そう。じゃあ、信頼して待ってる」
「うん、期待してて」
 先程とはやり取りになった交渉と、最後にルーフの場所を知らない奈央の為に待ち合わせ場所を歓楽街の南門にある、鬼神様銅像前に十七時と決め、通話は一先ず終わった。次に掛かってくるのは打ち上げ参加の可否だ。果たして何時頃だろうか、そう思考することが楽しみにしていることであることを、奈央は気付いていた。可否報告ではなく、電話自体を。
 携帯をカーディガンに仕舞い、床に触れていた足もベッドに上げ、仰向けになった。髪がシーツだけでなく身体にも流れる。
 遊びの約束も取り付け、交渉も頼み、目下の悩みは―――
「着替えた方がいいんだろうな、やっぱり」
 ボーダーシャツに、ジーンズ、薄紅のカーディガンと、ラフと落ち着きの合わさった服装。これでも充分問題ないとは思うが、一考はしてみてもいいかもしれない。有名なバンドならば、ネットで検索すればインディーズとはいえ引っ掛かるだろうし。
 奈央はスルスルと髪を滑らせながら起き上がる。自室のパソコンのスイッチを押し、今度は椅子に腰掛ける。静かな起動音。打ち消すノック音。
「入っていいよ」
「やっほー。奈央、厚志くんとデートするんだってー?」
 奈央は遥子の直球の挨拶に、頭を抱えた。
「まあ、予想できた結果よね」
 こんな日に限って、姉は朝からではなく昼食から彼氏と遊びに行く予定なのだ。
「そう、先輩とその友達のライブを見に行くの。一応、母さんと父さんには言わないように」
「分かってるよぉ。それぐらい。でも、そっか。それだとデートって感じじゃないね」
「いや、だからデートじゃないって」
 奈央は手を言葉と同意義に振る。
「それで、そのバンドのグループは知ってるの?」
 遥子はベッドに腰掛け、話題を有意義なものに変えた。
「知らない。だから、ネットで調べておこうかと。Holy Scriptって言ってたけど、知ってる?」
「―――Holy Scriptって、それ、インディーズだけど普通の店でもCD売ってる有名バンドだよ」
「そうなの?」
「うん。略称HS。取材や撮影はお断りみたいだけど」
 遥子の言葉通り、検索すると万を超えるページがHITした。その全てが、写真掲載無しだった。オフィシャルページを開くと、ライブの告知説明が全て厚志の内容と一致していた。
「厚志くんって交友関係広いねぇ~」
「どちらかというと、世間は狭いが正しいみたい」
 メンバーの名前を見て。奈央は厚志とHSの関係を推測した。



 市内に点在する駅の一つ。自宅から徒歩で二時間以上、バイクで三十分余り、今回は隆大の家からなので二十分の待ち合わせ場所、十一時二十七分に着いた厚志の許に、小柄な身体と肩から提げたボストンバッグを激しく揺らし、ヒールの低いブーツで派手な音を立てながら、花卉秦かきはた柚夏ゆずかは到着した。
「あ、厚志。お待たせ! …っは…ぁっ」
「いや、まだ時間前だよ」
 自宅から歩いて十分の道を、最初から最後まで走ってきたらしく、白く小さい膝に手を付き整える。余程必死だったのか、ライトブラウンの瞳は湿りを帯びている。呼吸の度に、首筋で切り揃えた癖毛の髪が何度も上下する。色は瞳と同じ薄い茶。生来故の不自然さ。
 乱れて、癖の酷くなった髪を整えてやる。柚夏は髪と同色の瞳を細め、荒れていた息が途端に落ち着いたものに変わっていく。厚志からすれば、柚夏の可愛さの一部になっている癖毛だと思うのだが、本人は整えたがるのだ。泊まりに来たり行ったりしていた頃はよく弄らされた。厚志は柚夏といい、傀といい、どうして自分に髪を弄らさせたがるのかと、偶に疑問に思う。お陰で、今何か自発的に整えている。
 トフ
 柚夏が手櫛をすり抜けて厚志の胸に凭れ掛かる。柚夏は直接的なスキンシップを取る方だったが、近年、人通りのある外でこういった事は珍しかった。
 厚志は喉元まで出掛かった質問を抑え、代わりに手櫛を数度通す。周りの視線など、柚夏の穏やかな顔と比べれば安いものだった。
「えへへ、ごめんね厚志。何か久し振りで、抑えきかなくて」
 手櫛ではどうにもならない癖を残して整えた頃合、柚夏は自分から厚志から離れた。走った所為で感触が気に入らなくなったのか、オレンジのセーラーパーカーと、デニムのミニスカートを手早く整える。
「遊べるのが嬉しいのは、僕も同じだよ」
 柚夏は従妹である以上に、気心の知れた友人だ。
「だからさ、差し支えなければ、言ってない理由を教えてくれないかな」
 厚志はやんわりとした口調で、柚夏に遅らせた質門をする。バッグを提げての全力疾走とはいえ、走って五分の道で涙まで流すのは不自然だ。
「……お父さんとお母さんと喧嘩した」
 柚夏は拗ねた体で顔を背ける。
「でも、あたしは悪くない……事は今回はないかもしれないけど」
 自信なさ気の付け足し。本人も分かっているのだろう。
「ユズ、手出して」
 言葉通りに、握っていた右手を開き、前に出す。その手を厚志はしっかりと握った。
「半々ぐらいの悪さなら、遊んで気分をスッキリさせよう。時間はあるしね。気が晴れて家に帰った後で、また相談すればいい。何だったら、僕も付いて行くよ。その場合は、詳しい話を聞くことになるけど」
 柚夏は変わらぬ厚志の信頼に、自分の左腕を回し、厚志の左手を抱え込むようにした。
「ありがと、あーくん。だから好きだよ。でも、付いて来なくても平気だよ」
 柚夏は苦い思い出を微塵も感じさせずに補足する。
「あ、好きっていうのは勝手に言ってるだけだから。返事は厚志が好きになってくれた時でいいから」
 返事を封じられた厚志は、肯定代わりにポフポフ頭を叩いた。
「チケットの事で話があったんだけど、腹ごしらえの後の方がいいね」
「うん。もうお腹ペッコペコ。でもどうしよ? 招来、二人とも休んでるんだよね」
「じゃあ、取り敢えずここから離れた喫茶店で」
「しょうがないか。休み時間に顔出そ」
 腕を組んだまま予定を立てながら、駐輪場に向かった。身長差は十五センチ以上あったが、兄妹には、見えなかっただろう。

 十六時まで遊び倒す事情になり、他のメンバーとは携帯電話での相談となったが、招待の件はすんなりOKとなった。



 歓楽街、というと夜を賑わう、未成年お断りのアルコール飲酒店を思い浮かべがちだが、実際には多種類のレジャー施設や映画館も存在している。例えば、厚志と行ったビリヤード店も、その敷地に存在している。ビリヤードしながら摘める飲食系も充実しており、食事も無い道路沿いにある多目的遊戯店とはその辺、専門度が違う。更にここ岐夙市の歓楽街の場合は、ブティックやスーパー、つまり商店街の一面もあり、それぞれ高校生や、主婦層、一人暮らしの若者までお世話になっている。特にブティックは、全国チェーンの本店だけあって、良質な品揃えでスペースもフル活用している。近年、質は益々益々向上している。
 勿論、イメージ通りの歓楽街の一面もある。未成年来店禁止の店はあるし、時間によっては映画館でポルノだって上映している。が、利用客が多いブティックやスーパーは入り易い様にそれぞれ南門、東門の一番手前にあるので、入街する事に抵抗感は無い。その後はレジャー施設と互い違いになるような位置取りで、未成年来店禁止の店が乱立する。中央を抜けた北門方面には、性風俗店もあるのだそうだ。
『だそうだ』と言うだけあって、奈央が利用するのは主にブティックと、姉と来た場合買い物帰りに近くにあるレジャー施設に立ち寄るのみ。奥まった店舗の位置取りは知らないのだ。一応ネットの地図を見たが(位置的には中程で、18歳未満利用禁止の店は周りに無かった)知っている人間に案内してもらう方がいいだろう。
 そんな訳で、奈央は待ち合わせ場所である鬼人様きじんさまの―今では殆どの者が鬼神様きじんさまと勘違いしている―銅像前に居た。正式名が表しているように、異形を示すのは頭頂部の一対の角のみ。その容姿は着物を着た中性的な女性にしか見えない街を見守る像の台に、奈央は腰を軽く当て、同じ方向を前としている。
 服装は着替えていた。バラード系もロック系も歌うようなので朝のままでも良かったのだろうが、気分と言うやつだ。桜色のローファーから伸びる、長くスラリと脚を隠す膝丈のホワイトソックス、同じく膝丈まである朱のフレアスカートに、上衣はサンライト太陽色ブラウス。上着は、袖を外した雲色のショートジャケットを掛けるという、奈央のらしさが出た装いだった。
 待ち合わせ場所で五回目となる携帯電話の時計を見る。約束十分前。着いてから過ぎたのも十分。三十分余りの道のり。歓楽街にある、道路沿いの本屋より品揃えの良い西口、ビルのテナント内一フロアにある本屋で今日発売の雑誌を読もうと早く出すぎたのが失敗だったらしい。読み終わってそのまま時間まで本屋にいても良かったが、用の無い店内で時間潰しする方策も無く、現在に至る。
 もう一つ、決めた時は然程気にしなかったが、待ち合わせの場所が悪い。高校生が歓楽街にいても犯罪ではなく、よって世間体も問題ないのだが、それとは別の、歓楽の街の特質の意味で、場所が悪い。
「ねえねえ、暇してるんだったら、俺と遊ばない?」
 これで六回目となるナンパの声に、奈央は眉を顰めた。
 遥子が褒めるとおり、奈央は結構な美少女である。服装のセンスもいい。更に言えば、フィットタイプではないノーマルなブラウスであってもボディラインは出る。体付きが華奢な分成人女性と比べてもカップが大きい胸などは小さい方がいいという人間以外には大層魅力的に映るだろう。
「待ち合わせをしているので」
 貴方と遊ぶ暇はありません、消えてください、とまで言うと相手を無意味に刺激しそうなので、その意志は暗に籠めるだけにする。
「そ、そうかい。悪かったね」
 声を掛けた男はすごすごと引き下がっていった。理解が早くて結構なことだ。
 これまでの五人もしつこく食い下がった男はいない。
 耳に入ったことがないだけかもしれないが、不良は勿論、ヤクザの問題なども聞いた事がない。ここ岐夙市は、日本の中でも治安はいいのかもしれない。
 時計を見る。八分前。
 ブティックの紙袋を下げて出てくる男女問わない人。恒例になっている、月一の何かしがの企画。先月はここでなくとも春物の新作フェア。今月はビジネススーツ系だったか。大学生の職周り用とは違う、就職決まっておめでとうと、新入社員が来るので上司もビシッと行きましょう的意味合いの。特に大量に入荷されたロープライス商品のスーツは、隠れた良服を作る中堅ブランドの物で、企画者も分かっている。奈央もそのブランドの一般服を持っている。厚志のシンプルシリーズもここのものだ。尤も、友達がいない状態で、それも高校一年生の自分が、ロープライスセールであってもビジネススーツを買う気など、無いわけだが。
「君、可愛いね」
 七回目のナンパだった。しかもいきなり容姿の褒め言葉から入ると言う、下心見え見えの声掛けだった。
 奈央は答える必要性も無い只の評価に、代わりに無視で答えた。
「そんなとこに突っ立ってないでさ、遊びに行こうよ。映画とか、レジャーのどれかとか。あ、いきなりホテルでも俺は全然いいよ」
 男は反応がないのにも調子を変えず、誘い始める。理解の悪い事だ。先ほどまでにも同じ類の声を掛けた男は二人ほどいたが、今と同じ対応で下心は隠したぞ。主に最後の一言。怒りが沸点に達し掛けたが耐える。男性経験はおろか彼氏を作ったこともないが、あの姉の猥談で下ネタに対する耐性は相当に付いている。それでも、この後の予定が約束事でなければ耐えられなかったかもしれない。
 確かにこのナンパ男、見た目はかなり格好いい。下心見え見えの直球でもナンパ待ちの女なら二つ返事で付いていくのだろうが、奈央はこれまでもこれから先もナンパ待ちをする気はない。
 奈央は辛辣な台詞を押し止め、今日七回目の台詞を与えた。
「待ち合わせをしているので、貴方と遊んでいる暇はありません」
「こんなとこで待ち合わせ? 俺ならしないな~。男に誘われるの分かってるもん。相手、彼氏? それとも友達?」
 放っておけ。しつこい。待ち合わせの女すら堕とせると思っているのか、この馬鹿は。治安が良くても例外は存在すると言う事か。
「友人です」
 彼氏、と答えれば話は早かったのだろうが、厚志の存在を、例え方便でだってそんな風に使う気にはなれなかった。
「じゃあ、その友達も一緒でいいからさ、俺も仲間に入れてよ」
「駄目です。貴方ぐらいの容姿なら女には不自由していないでしょう。別の方を誘っては如何ですか」
 奈央は男に拒絶を超えた隔絶を伝える。ここまで言われて消えろと言われていると理解出来ない人間はいないだろう。冷静さを失わない為の丁寧語でなければ自分の方がキレてしまいそうだ。
「君ほどの美少女を見て別の女の子なんて考えられないよ。友達には俺から断り入れるからさ」
 馴れ馴れしく顔に伸ばされる手。叩き落すのも不快なので、奈央は避けようと右に足を運ぶ。―――結果的にそれは必要なかった。
「いっ、いだだだっ」
 男の影から伸ばされた手が、無遠慮な行為を静止させる。人影はモノクロカラーで、身長は奈央より十センチ少し高かった。
「先輩」
「やあ、ようこそ」
 男の右手を素早く捻り上げ、左手を上げて挨拶する厚志。男が視界を塞いでいたのでやって来ているのに気付かなかった。
 厚志は奈央から一旦視線を切ると、男を常からは想像付かないような眼光で睨み付けた。それは、首だけ振り返って罵倒を上げようとした男に短い悲鳴を上げさせ、奈央には厚志の新たな一面の発見だった。
「ナンパはいいけど、しつこいのはご法度だよ。分かった? 分かったら三回頷く。そうしたら捻っているのは直してあげる」
 男はこくこくこくと指示通り、三度頷いた。厚志は自分は動かず、男を振り回すようにして捻っていた手を直す。苦痛の詞が上がった。それを意に介した様子もなく、男の左手を新たに掴む。これで男は両手を厚志に奪われた事になる。
「手を放したら、僕達から離れる事。いいね? 分かったら『はい』と返事」
「は、はひ……っ」
 底冷えする声音に、告げられなくとも拒否時に確実に存在する罰則を、生涯で間違いなく最も活用した危険感知能力で悟った男に、頷く以外、選択肢がありはしなかった。

「改めて、ようこそ、碑蔵さん。ごめんね、あんなの滅多にいないんだけど。今日の僕は、どうも運が悪いらしくてさ。今のは僕の責任って事にしておいて」
 脱兎の如く歓楽街から逃げ出す男を見送る事もなく、厚志は平時に戻っていた。奈央はそちらに安堵の息を吐く。
「先輩の責任なんかじゃないよ。それに、滅多にいないっていうのも分かってる」
 奈央は厚志が来てから気付いたのだが、厚志以外にも何人かこちらに駆け出し掛けた通行人がいた。止めが入った後も、買い物帰りの客が多いにも拘らず、雑踏に野次馬は出来なかった。ちゃんと自治が出来ているのだ、この街は。止めに入ったのが、たまたま奈央そのものに用があった厚志が一番早かっただけで。
 勿論、日が悪かったのも事実だ。月一企画の最初の日曜日。スーツの企画では女性客の比率が高くなるわけではないが、人が多くなれば絶対値は高くなる。ナンパ自体が目的でも、買い物のついででも、平時より多く発生するには充分な条件だ。
「そっか。よかった」
 奈央の言葉が建前でない事を察した厚志が、四感情の一番目の瞳を作った。二つ目の中でも明らかに負の属性を持つさっきの表情より、こっちの方がずっとよく似合う。あんな狂気的な雰囲気であっても冷静さを失っていなかった辺り、彼らしいとも言えるが。
「―――ありがと。友達同士でも、気持ちぐらいは伝えておかないとね」
 奈央は遅れ気味になったが、礼と労いを含んだ一語を口にした。
「どういたしまして」
 厚志は意を受け取り、彼女を倣って言葉にした。
「さて、行こうか」
「ええ」
 厚志が街側を向き、案内してもらう奈央が右後ろに続く。
 時刻は約束より五分早い十六時五十五分。歓楽街の移動を考えても開演には随分と早いが、控え室で紹介しあう予定を含めて決めた時間だった。
 営業中の店を幾つか越えた先、厚志はついと歩みを緩め、元々半身気味だった身体をはっきり奈央に振り向かせる。
「どうしたの?」
 周辺の建物には注意を払っていたが、まだルーフという文字は見えていない。
 厚志は「今更だけど」と前置いて。
「その服、似合ってるね」
 奈央は唐突に褒められ一瞬呆けたが、理解した時にはスカートと同じ色に顔が染まっていた。
「この間の服も似合ってたけど、今の方がらしいって言ったらいいかな。碑蔵さんのかわいさがよく分かるよ」
「……そ、そう」
 思いも掛けない内容に、奈央は一言返すのにやっとだった。先程の様なナンパ男に言われるのとは比べるのが失礼な程心に響く。
 それは恐らく、容姿だけを表現した言葉では無いから。姉の遥子と同レベルで奈央の事を理解していなければ、絶対に出せない感想だった。
 厚志は反論の無い様子を確認して案内を再開し、奈央も降って湧いた感情を引っ込める努力をしながら後を追った。

 Holy Scriptというバンドだけでなく、ルーフについても調べていたので、その外観は直ぐに知れた。階層は一つだが、絶対高さは約二つ分。外観のデザインや電飾は強い色は使っているが、組み合わせが上手く五月蝿くは無い巧みなバランス。反面、Roofルーフなんて名前の割に、屋根も屋上もないアンバランス。
 端にある鍵の掛かった強化ガラス製の両押し開きのドアからは、奥まである通路、受付、突き当りのドアが確認できる。受付には人がいない。当然だろう。厚志から渡されたチケットによると、客の入場は十七時三十分からだ。
 開かぬドアの前で厚志が携帯を開き、電話を掛ける。出た相手に、自分達の事を確認してもらい、互いに電話を切る。三秒と待たない間に、突き当りのドアから、体躯の大きい壮年の男性が通路へと姿を現した。
「ちっと待ってろよ」
 言いつつ、掛けていた鍵を外す。彼はその流れのままにドアを開いて歓迎の意を示す。厚志も先にどうぞと、奈央に対して道を空けた。
 二人が入ると、彼はまた錠を下ろす。開場まで三十分。開演までは一時間。
「おまえさんがこいつの言ってたお嬢さんか。成程、こりゃあの姫さんと気が合いそうだ。おっと悪い。蛇から聞いてるかも知れんが、俺がここのオーナーだ。が、それよりはマスターと呼んでくれ」
「はい、そうします、マスター」
「敬語も丁寧語も、地じゃねえんならよしてくんな。ライブの日にまでそれじゃ、息が詰まっちまう」
「分かった」
 即順応して頷く奈央に、マスターは蓄えた口髭を満足気に笑み作る。
「さて、俺にばかり構っちゃいられねえな、連中にも紹介し合ってきな」
 マスターが通路を進みスチール製のドアのノブを握る。先は小さな袋小路で、左手に会場に繋がる防音扉があった。それも、その巨体に見合った大きな手で開けようとする。
「っと、待った、マスター」
 それを厚志が制した。そして視線を奈央へと動かし、親指で扉を示す。
「開ける?」
 そのシチュエーションは、何処か覚えがあった。ならば答えは決まっている。
「勿論」
 片開きの防音扉に手を掛ける。ライブハウスのドアを奈央は生まれて初めて開けた。
 灯りを切られた店内。高い天井。テーブルと椅子の向こう。ドラムとピアノが固定されたステージがあった。
 残念ながら感慨は湧かなかったが、やって来たと改めて自覚した。
 灯りがきられている中それらを眺めていると、タンと、ハウス内から跳ねる様な足音が近付いてくる。音の発信者は小柄で、首筋までの髪を薄い茶に染めた―――いや、天然だろうか。粗い訳ではないが、染めた髪の不自然な完全さがない。髪と同色の大きな瞳が、その推測を益々裏付ける。兎に角、そんな少女がテーブルと椅子の隙間を縫いながら、最後には黒革のミニスカートから伸びた、健康的な白さの脚で一跳ね、三人の前に停止した。
「厚志おかえりー!」
「ただいま」
 小さな顔に満面の笑みを浮かべる少女。奈央は紹介されずとも、彼女が誰なのか分かった。
 少女は視線だけでなく、脚を視点に角度を変えて、自分の正面を奈央に向ける。
「あなたが厚志の言ってた友達だよね。えっと、聞いてるかもしれないけど、あたし、ユズ。Holy Scriptのメインボーカルだよ」
「どうも。私は碑蔵奈央。歌、楽しみにしてる」
「奈央さん、ね。奈央でいい?」
「いいよ。柚夏ゆずかちゃん」
 ピクッと、一瞬幼い小作りの顔の表情が硬直した。
「あ、あれ。厚志からそこまで聞いてたの?」
「いいや、予想。厚志の従妹のことは招来のおじさんとおばさんに聞かされてたから。どうやらBINGOだったみたいね」
「あ~~…愛称にしただけだから、分かるよね。えっと、この事は秘密にして。家族に内緒でやってるから」
「分かった」
「ありがと、奈央~」
 ぎゅーっと、じゃれ付くように抱き付く。メンバーは四人いるのに彼女一人が控え室から出てきているあたり、感情が素直に行動で出るタイプらしい。
「……奈央、歳幾つ?」
 抱きついたまま、小声で図るような表情で柚夏が奈央に尋ねる。
「16だけど、それが?」
「……一つしか違わないのか~」
 言い、奈央から離れ、柚夏は奈央より十センチ以上身長が低い自分の身体を見下ろす。主に黒のショートジャケットの裡、赤紫のチュートップを。
「取り敢えずそこまで。リョウ達とも紹介し合わないと」
 今の質問等が聞こえていたのかいなかったのかは分からないが、頃合と見たらしい厚志がステージ横の扉を指差した。
「あ、うん」
「わ、分かってるよあーくん」
 歩き出した厚志の後を、奈央は早足で、柚夏は駆け足で追った。
 控え室は緊張を適度に与える、薄い寒色だった。設備はリラックス色が強い。奈央が入った今も、テレビは再放送のバラエティ番組を流していた。但し、HSのメンバーは初対面である奈央にちゃんと視線を向けている。
「初めまして。先輩に招かれて来ました、碑蔵奈央と言います。今日は楽しんで帰るつもりなので、宜しくお願いします」
 奈央の自己紹介に交じった言葉に、メンバー全員の表情が緩んだ。
「えっと、リョウです。平志岐ひらしきりょう。宜しく。ユズの歌だけじゃなく、ギターにも注目してください」
「ドラム担当の高幡たかはた清道きよみちだ。バンドネームはセイ。ま、楽しんでってくれ」
「ピアノ&パートツインボーカル担当、アンズ。本名は加賀美かがみ杏奈あんなね。宜しく、奈央ちゃん」
「その杏奈の兄のいつきだ。中学教師の傍ら、マネージャーみたいな事をしてる。今はそんな印象じゃないだろうが、こいつらの保護者みたいなもんだ」
「えっと、改めて、メインボーカル&作詞発案のユズ。作詞の校正や作曲は、皆で相談してるんだ」
 返礼とばかりに、メンバー全員で自己紹介を行う。後は新顔の奈央を話題とした雑談だった。

 雑談の輪から少し口を外して、今は衣装であるチュートップの上にセーラーパーカーを着ている柚夏は、厚志と奈央を見比べる。
 柚夏が漣一が来れず、奈央を代わりに誘った事を厚志から聞いたのは、駅前での待ち合わせでだった。
 漣兄さんと傀が来れないのは残念だったけれど、もう一つの内容は嫌じゃなかった。あーくんの選んだ人なら間違いは無い。でも、律以外の女の人って言うのは、少しビックリした。それで、やって来た奈央はとても綺麗で大人っぽくって、胸だって大きい。ウェストは流石にあたしの方が細かったけど、自分の場合小柄で、二次成長も鈍くて未成熟だから全体の肉付きが薄いだけ。奈央みたいに括れてるのとは違う。別にあーくんが大きい胸が好きだって聞いたことがある訳じゃないし、小さい胸の方が好きな事だってあるかもしれないから、それはいいのだけど。
 関係を訊いてみた柚夏に、後輩で、友人、恋人じゃないと厚志は言った。柚夏はそれに安堵した。
 何故安堵したか。理由は簡単だ。柚夏は厚志の事が、異性として好きだから。特別なこともなく、自然に好きになっていた。気付いた時、中学一年の時には告白だってした。フラれたけれど、柚夏はまだ厚志が好きだった。
(計画しといてよかった)
 おじさん達に無茶を言い、親二人と喧嘩してまで通して良かった。奈央本人にそのつもりは無くとも、柚夏にとっては、戦闘放棄状態の大っ嫌いな本命ライバルの影から現れた、ダークホースみたいなものなのだ。
「奈央、アドレス交換しよ。それで、予定付いたら遊ぼうよ」
 勿論、奈央自身の事は好きになれる人間なので、嫌うなんて事はないのだ。








 恥ずい。奈央の思考書くのが凄く恥ずかしかった。けどこれが奈央の思考なんだよなと、恥ずかしいからって変えられないよなと、根性出して書き切りました。
 本編の内容の方は、名前だけ出ていた柚夏が漸く登場。元気な子です。厚志に告白までしてます。元気で明るいだけの非人間的なキャラは書きにくいんですが、この事実一つのお陰で確立した柚夏像が固まり、書き易くなりました。やっぱ一貫性があると掴み易い。逆に何考えてるか分からなくても書き易いのは厚志。ただ、思考は書きにくいけど。厚志視点がどんどん減ってるのがその証拠。
 しかし、篠崎隆大はキャラ立ちが強烈だな。
 容姿説明

 篠崎しのざき隆大ゆうだい
 性別:男 年齢:18(11/11)・高校三年
 身長:172 体重61
 髪:黒(普) 瞳:黒(普)

 花卉秦かきはた柚夏ゆずか
 性別:女 年齢:15(7/11)・中学三年
 身長:147 体重:37
 3サイズ: 70 49 70
 髪:茶(セミショート・生来) 瞳:茶(大きい・生来) 肌も白め

 では来週も掲載します。多分間に合います。…今回の後書、長いですね。柚夏へのコメントが長いからか。






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