夏休みも八月に入った水曜日。朝も早い時間から窓越しでも燦々と照りつけているのが分かる太陽の下。チエはセットした目覚ましよりも早く起きて、大きく伸びをする。パジャマの胸元のボタンが二つ外されているのは、余程寝苦しかったのだろう。
「シャワー浴びてから行った方がいいかな…」
 欠伸も交じる判然としない頭でチエは一人ごちる。どうせ今日は直ぐに水の中に入る予定なのだが、それだけ寝汗が酷かった。気を使っておこう、デートだし。
 私服を持って行って、脱衣所で服を脱ぎ浴室へ入る。
「ひゃっ。冷たっ!」
 朝一番の配水は夏場でもかなり冷えていた。
 しかしお陰で目も覚めた。放水をシャワーから水道管に変え、ぬるま湯になるまで温める。こんな基本的な事が飛んでいるとは随分寝惚けていたのだろう。
「よし、これで大丈夫っと」
 改めてシャワーを浴びる。放水が肌に弾かれ、寝汗を洗い流す。
「……」
 自慢の胸と、下腹部も一応念入りに。いや、だってほら、そういう事があるかも知れないし。
 浴室から出て私服を着る。
 ボーダーのシャツにショートパンツにした。熱いのでパーカーは却下。
 朝食も食べ、今日の為に用意していたビーチバッグを肩に引っ掛ける。
 時刻は午前八時十分。待ち合わせにはまだ二時間近く間があるが、構うまい。チエは予定を待ち合わせから強襲お宅訪問に変更した。
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい。お昼、良ければ河野君も連れて来なさい」
 家に挨拶に来た訳ではないが、母親には既にデート現場を押さえられていた。
「あはは、一応センパイに伝えとく」
 チエは伝言を承り、扉を開閉して駆け出した。

 彼の家へ行く前に、チエは居ないであろうが一応待ち合わせ場所の公園を覗く事にした。園内にはこんな朝早くから遊んでいる元気な子供が四、五人いるだけだ。大人の姿なんて欠片もない。
「行って来るッス」
 告白の場所の公園に出立を伝え、チエは踵を返した。
 全てを知っている公園は、穏やかにその背中を見送っていた。

 玄関に鍵は掛かっていたが、鍵の隠し場所を知っているチエはそれを使って侵入に成功した。入ったら今度は鍵を閉める。足音を忍ばせ階段を上がり、何度か来た事のある彼の部屋の前まで来る。
「……しつれ~しま~す…」
 断りの意味のない声量で部屋へ入る。ここまで出くわさなかったのだから予想通りというか、案の定貴明は寝ていた。チエは静かに慎重にバッグを置く。
 部屋の目覚ましは短針が9に重なろうとしており、アラーム設定の針もそこに合わされていた。チエは目覚ましの機能を切る。
 寝相良く眠っている貴明。チエはその上にダイブし、呼び掛ける。蛙が潰れたような呻きが上がったのはこの際気にしないでおこう。
「タカアキセンパイ! 朝ッスよ! 太陽も灼熱の如く照り付けて、絶好のプール日和ッス!」
 目覚ましをセットしていた位だから眠りも浅かったのだろう。
 貴明は一度で素直に起きた。
「げほごほっ!?」
 咳き込みながら貴明が跳ね起きる。もしかしたらいいところに膝が入ったのかもしれない。
 貴明のいきなりの狂態に、その上に乗っているチエもバランスを崩す。危うく後ろに頭から倒れそうだったので、自分から前に倒れこむ事にした。貴明の胸板にパジャマ越しに顔を埋める。勢いが付いていたので貴明の胸板でも少し痛かった。
「な、何でチエちゃんがここにいるのっ!?」
 寝起きの頭でも貴明はしっかりきっちり疑問点に面白いぐらい驚きツッコンでくれる。
 チエは貴明の懐から顔を離し、真っ直ぐに顔を見据えた。
「何スか? それが朝、起こしに来てあげた恋人に言う言葉ッスか?」
「人の鳩尾に膝入れておいて言う事かっ!」
 チエが飛び乗った時に鳩尾に乗っかっていたらしい。
「あ~。道理で少し深く沈んだと…大丈夫ッスか?」
「大丈夫以外に答えようないだろ…」
 正直まだ痛みは響いているし、若干呼吸が荒れているが、雄二と違ってやり返すわけにも行かない。
「そいじゃ、お詫びに」
 チエは貴明の顔を固定するとゆっくりと顔を近づける。

 チエの告白から早一ヶ月、二人は順調に付き合っていた。








 完結…完結って事でいいんですよね?
 よっちもう書けない。キャラは好きでも二次創作で俺の書けるタイプじゃない。自分のキャラならまだ書けない事ない口調なんだけど、人様のキャラだから物凄い違和感が過ぎる。次は捏郁の番外編か、由真を書くか…
 ここまで付き合ってくれた皆さん、ありがとうございました。



 おまけ

 貴明はプールサイドでチエを待っていた。プールにいるのは比較的小学生が多いが、中には自分達と同じ様に涼みに来たカップルもいるようである。
「センパーイ! お待たせッス」
「いや、そんなに待ってな…」
 声に振り返りながらの貴明の言葉は途中で切れた。大きく形の良いチエの胸を包むピンクのビキニ。下半身には水色のパレオも巻きつけ、プールには不釣合いに見えるその出で立ちも、彼女が着れば決して卑らしくなく、健康的な色気だった。
「どうッスか? あたしの水着姿! 悩殺されたっしょ?」
「あ、うん…かわいい」
 色気の種類が健康的だろうが何だろうが色気には違いない訳で、私服制服は勿論裸とも下着とも違うチエの姿に、貴明は見事悩殺された。






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