最後の授業のチャイムが鳴り、帰りのHRも終了する。西園寺女学院無所属者の一日が終わり、チエにとってのタイムトライアルが始まる。
「…よっち、今日もか?」
 ちゃる事山田ミチルには何の目的で急いでいるか伝えてある。幼稚園来の幼馴染に隠す事でもない。ちゃるはそんな事しないだろうが、毎日の自分の不審な行動を見て、変な詮索をされる方が嫌だ。
「そゆこと。じゃね、ちゃる!」
「…また明日」
 手短に去って行くよっちを見送りながら、ちゃるは一抹の寂しさと、腐れ縁の親友の真意が何処にあるのか分からない行為を応援していた。

 全速力の持続はかなりキツイ。だが、貴明がノンビリと帰る予定を進めているのなら間に合う筈だ。事実、初日は間に合った。それを根拠に周りに眼もくれず、鞄を持って疾風迅雷。
「う…ぅ」
 眼も暮れず…
「…っく…ひっく…」
 疾風迅雷…
「って、出来るかぁー!」
 チエの視界に入ってしまった、眼を覆い必死に涙を堪えしゃくり上げている四、五歳ぐらいの男の子。誰彼構わず自分から助ける善人ではなくとも、自分のリアルの範囲で泣いている子供を、どんなに急いでいる理由があろうと見過ごしていける程チエは割り切れた性格をしていない。
 踵を返し、足早に駆け寄り男の子の前に回り込む。
 男の子は突然道を塞がれた事に泣き顔も忘れてキョトンとしている。
「ねえ。どうして泣いてるか、良かったらお姉さんに教えてくれないかな?」
 チエは腰を屈め、視線の高さを合わせ訊ねる。
 男の子からすれば大人に見えるであろうチエの質問に、彼は瞼をゴシゴシ擦った。泣き顔を見られたくないらしい。腫らした瞼と充血した眼は兎も角、涙は拭けた表情で、男の子はそっぽを向いて、しかし質問には答えた。
「みちに…まよった」
 素っ気無い答え。でも、そこには見ず知らない大人相手にでも救いが込められていて。
「そっか。名前、言える? あたしは吉岡チエって言うんだけど」
「こうはらとおる」
 こうはら。チエはセンパイの苗字と似てるなと思ったが、その苗字自体に覚えは無かった。
「どうして道に迷ったの?」
「ともだちのいえにいこうとして…」
 ああ、それは覚えがある。彼女も子供の頃ちゃる以外の、子供にはかなり離れた距離の友達の家に、うろ覚えの知識だけで行こうとして迷った事がある。その時は結局家まで辿り着けず、途中で会った同い年ぐらいの男の子と遊んでいる内に探しに来た父親と一緒に帰る事が出来たが。十年も前の記憶でも印象深い出来事は結構覚えているものだなと思いつつ、チエは男の子の身元を確かめる質問を続ける。
「家の電話番号、分かる?」
「…×××…あとわすれた」
「そっか。あ、いいよいいよ、全然悪い事じゃないから」
 チエは泣きそうな男の子の前で手を振る。自分だってこの年の頃、家の番号を空で言えたかなんて怪しいものだ。
「じゃあ、お母さんかお父さんの名前、分かる?」
 男の子がこの質問を答えられたので、チエは交番に連れて行って調べてもらう事にした。
 常駐していた警官の対応は早く、時間が早かったのも幸いし掛けた電話に母親は直ぐに出てくれた。時間が遅ければ心配して捜しに出ていたりして、連絡が取れなかったかもしれない。
 後は母親が迎えに来るだけ。チエの出番はお役御免だったのだが、男の子にスカートの端を掴まれて仕方なく母親が来るまで一緒に交番で待ってあげた。どうせ今からではセンパイの帰校にも間に合わないだろうし。
 交番前に一台の乗用車が止まる。
「おかあさん!」
 そこから出て来た三十前位の女性を見て、男の子は弾けた様に駆け出した。
 母親の胸に飛び込み、不安を発露する男の子。母親は男の子を抱き締めたまま交番に送り届けてくれた少女に頭を下げお礼を言った。
 警官にもお礼を言い、乗用車に乗り込む親子。
「バイバーイ! おねえちゃん!」
「バイバイ! 次から知らないとこに行く時は、お母さんに付いていってもらいなさいよー!」
 男の子は手を振り、母親は最後にもう一度会釈して、二人を乗せた乗用車は走って行った。
 見送って携帯電話を見た時刻は15:14。チエは嘆息吐いて、重い足取りで待ち伏せ場所へ向かって行った。待ち人が居る訳もない校門へ。

 センパイ達の通学路になっている傾斜のキツイ坂。今日はいつにも況して辛く感じた。居ない事を確認して帰ろう。自分は待ち伏せに来たと自己満足をして帰ろう。
 らしくない後ろ向きの姿勢。
 チエは両手で頬を一度叩き、気合を入れて残り僅かな坂を駆け上がった。
 夕焼けが広がる視界。斜めにある校舎。立ち位置は塀と水平に。遠くに聞こえるスポーツ系クラブの喧騒。
「よ。今日は遅かったな」
 それらみんな、有り得ない待ち人の姿に吹っ飛んだ。チエは坂を駆け上がった時よりも早く、勢いを付けて貴明の身体に全身でぶつかった。
「とぁっ!? どうした、どうした!?」
 思いもがけないチエの行動に貴明は狼狽する。
「―――たまには直接的なコミュニケーションもいいもんスよ、センパイ」
 その姿は男と女というよりも、迷子の妹が兄を見つけた、そんな光景だった。
 無論、それは傍目であり、貴明は制服越しでも感触が分かる成長した胸とか女の子らしい柔らかい体とか、髪の毛から漂ってくるいい匂いだとかに気が気では無い。更には兄妹に見える事は感情的であり、現実の風景では全くそうは見えないわけで、今ここに――例えば雄二でもいれば、貴明の半殺し確定であるだろうが。
 そんな貴明の動揺を知ってか知らずかチエは貴明の胸から顔を外し手を取る。
「さぁセンパイ! ちょっと遅くなっちゃったけど、今日も遊び倒しましょう!」
 遊びに行く際貴明の手を引いて駆け出すのは初めての事だったが、如何にもチエらしかった。








 えぇ~と…これ本当によっちか?(汗
 しかもオリキャラ出てるし…
 取り敢えず、よっちはッスが無いと物凄い書きにくいことが再確認出来ただけでもめっけものかもしれない。そういう意味ではちゃるやこのみと絡ませるのも実は辛い訳ですが…昔の俺よくこの三人の短編書けてたな…性格出せてるかどうかは別として。
 まだもうちょっとだけ続くんじゃぞ。






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