貴明とチエが放課後に一緒に行動するようになって一ヶ月。その間、待ち合わせ場所を貴明の学校の門から、商店街の入り口へと変更したり、最長待ち合わせ時刻は午後三時半までと決まりを作った。時間の方は互いに用事だってあり、貴明が携帯電話を持っていないので、連絡も取れない故の処置だったが、待ち合わせが成立したのは過半数を占めた。
 だからだろう。こんな噂が流れたりしているのは。
「ねえよっち。男の人と付き合ってるのって本当?」


「…で、私は愚痴を聞く為に呼ばれたのか?」
 ちゃるは嫌そうに言い、箸で弁当から唐揚げを取る。昼食時、人気の少ない裏庭に引っ張って来られたと思ったらこれだった。チエは自分の弁当をつつきながら。
「うぐ…別にいいじゃん、愚痴ぐらい」
 大きな反論が来ないのは自分も冷やかしや勝手な憶測をやっていたからだろう。やられる側に回って初めて分かる。本当に付き合っているのなら兎も角、誤解の場合はきっちり解かなければいけないのだ。
「…嫌か?」
「何が?」
「先輩と恋人に見られるの」
 チエは金平牛蒡を喉に詰まらせた。咳き込むよっちの姿にちゃるは水筒からお茶を注いでやる。チエはそれを一気に飲んだ。
「あ~助かった~。ありがと…じゃなくて! 何言い出してる!」
「…一度で分からなかったか?」
「分かってるっつの! 寧ろ、ブルータスお前もかって状態! 光秀に裏切られた信長の気持ちがよく分かる!」
 愚痴りに来た先でまでこれはないっしょとチエは大きな嘆息を吐く。
「…私は興味本位で言ってない。単純に先輩のことを好きか聞いてる」
 静かで若干辛辣な性格のちゃるは、いつに無く真剣に眼鏡の奥の双眸を真摯に柔らかくして、十年来の幼馴染の顔を見据えた。
 チエはうぅ~と唸り、両手を挙げた。
「降参。センパイの事は好き。けど、今までこのみとの関係をからかってばっかりだったから実感が湧かないんだよね。恋かどうかも分かんないし」
 センパイの事が男の人の中で現在一番好きなのは間違い無い。知り合った時期も、自己紹介してからの日が浅いだけで一応三年分ある。
 只あんまりに自然過ぎて、好きになるキッカケ云々とか、そういう…
「…よっち、実は恋愛疎い?」
 幼馴染の手厳しい一言。
「何? あんたは詳しいって訳?」
「…違うけど……好きになるのにキッカケなんて必要ないよ。私とよっちが親友になったのに、キッカケなんてあった?」
 チエは思い返してみる。幼稚園時代から少し冷めていたちゃるが気に入らなくてちょっかいを出している内に…だったと思う。何も大きな事件なんてない。ちょっかいを出している間に勝手に理解して、いつの間にか友達――親友と呼べるまでになっていた。
「…私はよっちに先輩と付き合えって言ってるんじゃない。けど、よっちが先輩の事を男の人として好きなら、好きかどうかに自信がないのなら、ちゃんとそれに気付いてほしい」
「ちゃる…」
 言い終わり、出汁巻き卵を頬張るちゃる。チエはそんな様を見つつ、ちゃるの助言を心に留め、一言。
「一気に喋って辛くない?」
「……人を何だと思ってる、発情タヌキ」
 裏庭で、もう数えるのも飽きた回数のタヌキツ戦争が勃発した。


 午後の授業も終わり、放課後。商店街前でチエと貴明は邂逅した。
「今日は暑いッスねぇ~。センパイ、アイス食べましょ、アイス」
 チエは本日の方針を半ば強引に決定して、貴明の腕を取った。
「あ、ああ。いいけど」
 貴明も賛成する。取られた腕を振り解かないのは慣れたのか、振り解く事が悪いと思っているのか、或いは―――
 アイス屋は七月に入ったので夏のフェアを開催していた。
 考える事は皆同じなのか、アイスを持った学生が闊歩し、今も何人か並んでいた。二人もその列に加わる。
「センパイは何頼むんスか?」
「そうだなぁ…じゃあ、折角だから期間限定の…」
 貴明はメニューボードを見て商品名を確認する。期間限定商品は南国トロピカル(三段重ね)と、スイカだ。
「スイカ味にするよ」
「そッスか」
 順番は直ぐに来て、チエが注文を告げた。
「南国トロピカル一つとスイカ一つ」
「はい、少々お待ち下さい」
 店員が一礼をしてコーンの上にアイスを載せていく。出来上がったアイス二つ。貴明とチエはお金と交換で受け取った。
「うはぁ~。凄いッスね」
「確かに。よく出せてるよな、雰囲気」
 スイカは極予想通りだったが、南国トロピカルの色合いもよく出せたなというぐらい、名前のイメージに近い色合いとトッピングだった。
 歩きながら一口二口アイスを頬張る。酸味やら夏の香りやらが口腔と鼻腔に広がった。
「センパイ、美味しいッスか?」
 貴明のアイスが半分を切ったあたりでチエが訊ねる。
「ああ。スイカの味だけじゃなく、美味しくなるように工夫されてる」
 スイカのアイスは薄味のものが多いのだが、これはスイカ独特の甘さをそのまま強くした味で、更に種に見立てた黒いチップはチョコチップでなく何と黒ゴマだった。これが意外に合う。
「ふ~ん…じゃ、ちょっと失礼して」
「あ、おいっ」
 貴明の制止も虚しく、予め間合いを詰めていたよっちはアイスを一口カプリといった。
「うんむ。スイカの甘さが利いてて美味しい。それに種が黒ゴマなんてこだわりを感じるッスねぇ~」
「そうだろ。って、そうじゃねぇ~!」
 貴明は自分と同じ意見につい頷いてしまったが、問題点はそこではなかった。だがその問題を声に出せない。
 口をパクパクとさせている貴明に、彼の思いが伝わったのかチエはぽんと手を打つ。
「ああ、あたし一人だけセンパイのを貰うわけにはいかないッスよね。ささ、どぞ」
 伝わってなかった。チエは自分の三段重ねの南国トロピカルを貴明の口元に差し出す。
 態とやってるだろと貴明はよっぽど言いたかった。ここでそれを怒鳴ればチエも引き下がるかも知れない。しかし何を意識しているのかと思われ、後が気まずくなるかも知れない。それは貴明にとって歓迎できる事ではなかった。
(ええい、ままよ!)
 ガブッと一口で半分以上残っていた三段目全てを飲み込む。口の中が冷たくて逆に熱さすら感じる。粘膜が凍傷を起こしそうな冷気に耐え、アイスを噛み溶かし嚥下した。
「う、美味かった」
「そ、そりゃどうも」
 涙眼になっての貴明の感想に、チエは少し引いていた。が、その後二段目一段目も貴明に味わわせてみた。

「で、今日はどうするんだ? 俺は特にしたい事はないけど」
 貴明の問い。チエも特にないのなら会っても何もしないで歩いているだけということもよくある。チエは貴明の家でもいいといっているが、それは流石に断っていた。両親のいない家に二人っきりは不味い。
 チエは大した間も空けず、まだ日の高い空の下言った。
「公園、行っていいッスか?」
「ああ」
 本日の公園に子供はいなかった。たまたまか、或いは暑さで参っているのかもしれない。尤も、遊具も昔に比べれば、危険と判断されたものが減ってしまって、あんまり楽しい場所ではなくなっているのかも知れないけれど。
「公園で遊んだことって、あたしあんまりないんスよねぇ~」
 言いながら、チエはジャングルジムをこんこんと叩く。
「意外だな。鍵っ子だったの?」
 貴明の質問にチエは手を振って否定する。
「そうじゃなくって。幼稚園が公園代わりだったんスよ」
 結構充実した設備で、家から近かったから、幼稚園に入る前から遊んでいた。こっちで遊んだのを覚えているのなんて、たった一回。最近思い出した、迷子になった時に男の子と遊んだぐらい。覚えているのは迷子になったのが怖かった以上に、その男の子の事が好きだったのかもしれない。その男の子とは、それっきりだったけど。
「センパイ」
 風にざわめく葉の音を演奏に、暁になりきれない青空の下、チエは詩う。
「あたしと付き合ってみないッスか? …いいえ、付き合ってくれませんか?」








 よっち書くの下手でごめんなさい。勝手に過去作っちゃってごめんなさい。もうなんか支離滅裂でごめんなさい。出直して来ます。
 次で終わりだと思う。






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